医療・医薬翻訳とは?特徴や求められるスキルから依頼時のポイントまで徹底解説

2025.1.15

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医療・医薬翻訳とは?特徴や求められるスキルから依頼時のポイントまで徹底解説

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    業務効率化の標準ツールとなりつつある生成AIや機械翻訳(MT: Machine Translation)。調査や資料作成など、日常業務で活用されている方も多いですよね。

    このように便利なAIですが、医学・薬学に関連する翻訳においては「効率化」だけがゴールではありません。なぜなら医薬翻訳は、高度な専門知識を必要とし、人の命に直結する文書を取り扱っているからです。特に学術論文や承認申請書などの公式文書では「正確性」が第一に求められることから、AIを活用したとしても、人による確認作業が欠かせません。

    このような背景から多くの企業が翻訳のアウトソーシングサービスを利用していますが、この記事では医薬翻訳の特徴を踏まえたうえで、外部委託先選定時のポイントやTIPSを整理し、ご紹介します。

    依頼時のわずかな工夫が訳文の品質やタイムラインのコントロールにつながり、さらにご自身の業務効率化が期待できますよ。

    とらんちゃん

    AIが随分と活躍しているけど、まだまだ人の確認が必要なんだね。
    ちなみにとらんにはアンテナがあるけど、ロボットじゃないよ。

    そもそも医療・医薬翻訳とは?

    医療・医薬翻訳とは、生命科学、医療分野、製薬業界で扱われる文書を対象とする専門翻訳です。主な対象文書は、医薬品開発の各段階(基礎研究、非臨床試験、臨床試験、承認申請、承認取得・上市、市販後の安全性監視など)で作成される文書や医学系論文が含まれます。翻訳の用途は、グローバル本社への報告用(社内用)から国内外の規制当局向け、医療従事者向け、患者さん向けと幅広く、読み手や目的に応じた適切な仕上がりが求められます。

    さらに、翻訳の品質が人々の健康や安全に直結するため、誤訳や曖昧な表現は重大なリスクを招きます。加えて、各国の法規制やガイドラインに準拠する必要があるため、一般的な翻訳とは異なり、高度な専門知識と厳密な正確性が不可欠です。

    医療・医薬翻訳の特徴

    医療・医薬翻訳ならではの特徴について、詳しく見ていきましょう。

    • 遵守すべきガイドラインが多い
      グローバル化する医薬品・医療機器の開発、製造販売承認をスムーズに遂行するために定められた「ICHガイドライン」や各開発フェーズの基準を定めた「GxPガイドライン」、薬局方、MedDRAなど、製薬・医療機器業界では標準的に参照すべきガイドラインや用語集が数多く存在します。これらの中で使用されている用語は、いわば業界の共通言語。翻訳時には「定訳」として決められた訳語を選択する必要があります。

    • 企業から提供される参照資料も多い
      ガイドラインによって特定文書の定期更新が義務付けられていることや、一つの薬剤・製品に対し開発フェーズの進行に応じて段階的に複数の文書が作成されることも医薬翻訳の大きな特徴です。一つの文書を翻訳する際に、過去の翻訳結果に合わせつつ追加翻訳する、他の関連文書の記載内容や用語を厳密に踏襲する必要があります。

    • 量が膨大で、機密性が高い
      開発の現場では、基礎研究から承認申請、市販後まで、あらゆる情報が文書として記録されていきます。その集合体でもある医薬品のコモン・テクニカル・ドキュメント(CTDCommon Technical Document)や医療機器のサマリー・テクニカル・ドキュメント(STEDSummary Technical Document)ともなると、一つの文書で数百ページを超えることも。
      また、開発中の技術情報や被験者の機微情報を含む文書は、企業内でも限られた担当者しかアクセスできない、非常に機密性が高いものです。

    • スピードも求められる
      医薬翻訳は、新しい技術や各企業の製品を一日でも早く患者さんのもとに届けるための重要なプロセスです。正確性を担保したうえで、どれくらい納期を圧縮できるかも重要です。

    • 各社各様の業務フローや手順が定められている
      ガイドラインに定められた手順はもちろんのこと、正確かつスピーディな文書作成を実現するために、各社各様の業務フローや手順が設定されています。社内レビューやQC点検といったチェック作業が標準フローに組み込まれていることも大きな特徴です。

    医療・医薬翻訳の需要とその理由

    次に、医療・医薬翻訳の需要について整理します。

    医療・医薬翻訳は景気変動の影響を受けにくく、今後も安定したニーズが見込まれます。その背景には、業界特有の要因があります。

    • 法的要件:医薬品や医療機器の承認申請では、国際的なガイドラインや各国規制に基づいた膨大な文書作成・提出が義務付けられている。
    • 市場構造:日本の医薬品市場では、売上上位品目の多くを外資企業が占めている。
    • 企業戦略:国内市場の変化に伴う日本企業の海外進出・グローバル化が進んでいる。
    • 課題解決:ドラッグ・ラグ/ロス問題の解消に向け、国際共同治験への参加、海外治験データ有効活用などが推進されている。

    このように、言語の壁を超え国際競争力強化・協業促進が求められる医療・製薬業界において、正確で信頼性の高い翻訳は不可欠な存在です。

    医療・医薬翻訳に求められるスキルとは?

    医療・医薬翻訳の特徴や重要性を見てきましたが、それを支える翻訳者に求められるスキルは、大きく以下の3つです。

    1. 言語運用能力
    2. 調査力
    3. 適応力

    他の専門分野でも同じようなスキルは必要ですが、特に医療・医薬翻訳でこの3つが重要とされる理由を解説します。

    【言語運用能力】専門知識と正確な用語理解

    医療・医薬翻訳において、最も重視されるのは「正確性」です。そのため、翻訳者には原文の意味を正しく理解し、適切に訳文へ反映する言語運用能力が不可欠です。この基盤となるのが医薬品や疾患に関する専門知識と、両言語での正確な用語理解です。

    医薬翻訳では、同じ単語でも文脈によって訳語が異なる場合があり、専門分野の背景知識が求められます。また、順序や数値のちょっとした解釈の間違いにより、場合によっては人の健康や生命に関わる可能性もあるため、細心の注意が必要です。

    【調査力】背景情報の把握

    専門知識が必要ではあるものの、手掛ける翻訳のすべての領域において専門家レベルの知識を持つことは現実的ではありません。地道な経験の積み上げとともに、背景情報を把握するための高い調査力が医薬翻訳者には求められます。

    【適応力】参考資料や各社仕様の遵守

    医薬翻訳の特徴でもあげたとおり、法規制やガイドライン遵守のみならず、関連資料との整合性や依頼元企業の慣行に即した柔軟な対応が求められます。意味合い的には間違っていなくても、企業独特の言い回しや書きぶりにあわせるといった配慮が必要です。

    とらんちゃん

    医薬翻訳って奥が深い・・・
    では実際に翻訳会社を選ぶときは、何に気をつけたらいいのかな?

    医療・医薬翻訳の注意点

    翻訳会社を選定する前段として、医療・医薬翻訳における注意点を改めて整理します。以下のポイントをクリアできていないと、最悪の場合、承認の遅延や信頼性の失墜といった事業上のリスクに発展するおそれがあります。

    • 医薬翻訳で最も重要な正確性を担保するための品質管理体制が整備されているか
    • 膨大な量の翻訳を、ガイドラインや参考資料を遵守しつつ、決められた時間内に完遂できるか
    • 適切な情報管理体制があるか

    医療・医薬翻訳依頼時の選定ポイント

    上述の「医療・医薬翻訳の注意点」から見えてくる、外部委託先の選定ポイントは以下の3点です。

    1. 【品質】専門性、対応実績
    2. 【対応力】キャパシティ、翻訳支援ツールなどの活用状況
    3. 【情報セキュリティ】適切な情報管理体制

    それでは詳しく見ていきましょう。

    【品質】専門性、対応実績

    言わずもがな、医薬翻訳には高い専門知識が必要です。翻訳者のみならず、案件の工程を管理するプロジェクトマネージャが対象文書の構成や使用目的を十分に理解していることも重要です。書きぶりや各種ガイドライン、参照資料との関連性を把握しているかに大きく影響する、対象文書における翻訳実績の有無を重視することをおすすめします。

    加えて、翻訳後のチェック体制、納品前の検品プロセス、翻訳者の資格や専門性など、委託先候補の品質管理体制を事前に確認しましょう。これらは、翻訳サービスの国際規格「ISO17100」が規定する代表的な要件に含まれているため、「ISO17100」の取得有無を判断材料の一つとしても良いでしょう。

    「ISO17100」とは?翻訳の品質を守る 国際規格をやさしく解説!~翻訳よろず相談室~

    【対応力】キャパシティ、翻訳支援ツールなどの活用状況

    大量の翻訳を限られた時間で完遂するには、キャパシティも必要です。キャパシティを増やす方法には、複数の翻訳者で対応する、翻訳支援ツールを活用するなど、いくつかの手段が考えられます。メディカル分野に特化した翻訳者を十分に確保できているか、効果的なソリューションを導入しているか、といった点も委託先選定時の判断材料になります。

    また、優先順位が異なる複数ファイルを五月雨式のスケジュールで管理することも発生するため、担当するプロジェクトマネージャの工程設計力や進捗管理スキルの高さ、柔軟な対応力といった点もアウトソーシング先を選ぶ際の評価ポイントになるでしょう。

    【情報セキュリティ】適切な情報管理体制

    機密性の高い公開前の新技術・新薬開発情報を取り扱う場合、セキュアな環境で翻訳作業を遂行できるかは重要なポイントです。翻訳会社の情報管理体制をしっかりと確認しておきましょう。

    知っておきたい翻訳会社への依頼方法TIPS

    委託先を決定したら、いよいよ案件を依頼します。ここでも、ご自身の時間や労力を最小限に抑えるために工夫できることがあります。

    「案件をまるごと任せられる」というのが外部委託の良さですが、部外者がお客さまの事情や対象文書の背景を推し量るにも限界があります。結局手戻りが発生して効率化どころではなかった・・・とならないために、スケジュールや翻訳品質をコントロールできる、依頼時のTIPSをいくつかご紹介します。

    仕様を明示する

    翻訳の仕様とは、文書の内容、言語方向、分量、データ形式などを指します。依頼時に仕様を明確にすることで、翻訳会社と仕上がりのイメージを共有することができます。

    また前述の基本情報に加えて、「誰向けの資料なのか」という翻訳後の文書の使用用途を翻訳会社に伝えることをおすすめします。例えば海外当局への申請用とグローバル本社の確認用とでは、同じ文書を翻訳するにも品質、納期、費用の最優先項目が変わってきますよね。翻訳会社はそのような情報を加味した最善の提案をしてくれます。

    複数ファイルがある場合の優先順位や雛形となる基準ファイルがある場合、翻訳作業の工程設計に必要な情報となるため、それらも翻訳会社に明示しておくといいでしょう。

    スケジュールを事前に共有する

    翻訳作業自体は随分先の日程でもあらかじめスケジュールが決まっているのなら、事前に翻訳会社に連絡しておきましょう。翻訳会社側ではリソース状況の確認や案件の事前準備を進めることができ、サービス品質にプラスの効果があります。

    十分な翻訳作業時間が確保できないこともあるでしょう。そのような時こそ前もって翻訳会社にスケジュールを共有することで、限られた時間でも品質や工数削減に効果的なさまざまな工夫を翻訳会社から引き出すことができるかもしれません。例えば、ドラフト版の原稿で翻訳作業を進めておき、最終版で差分箇所を更新するといったやり方で、自社内での文書作成期間を最大限確保することができます。

    なお社内レビューやQC点検が入る場合は、スケジュール管理に大きく影響するため、見積もり時に伝えるようにしましょう。

    参照資料を提供する(できるだけ早い段階で)

    所定の翻訳ルール、スタイルガイドなどをお持ちの場合は、できるだけ早い段階で翻訳会社に提供しましょう。なぜなら翻訳作業開始前に情報を共有しておくことで、担当者がルールを把握する時間を確保することができ、その分翻訳作業に集中できる、つまり翻訳の品質に影響するからです。

    また類似資料の対訳(例えば、英語原文とその日本語訳)や用語集がある場合もぜひ翻訳会社に提供してください。繰り返しやよく似た文を含む類似資料であれば、翻訳支援ツールを活用することで文単位での流用も可能になり、翻訳コストや工数のカットにつなげることができます。

    翻訳支援ツールの有効活用

    なお、参照資料は原則「見積もり時」、遅くとも「案件依頼時(翻訳作業開始前)」までに翻訳会社に提供しましょう。翻訳作業を開始してからの反映は追加工数がかかるため、納期・費用に影響します。

    継続的に依頼できる体制を一緒に構築する

    決まったルールで翻訳する、定期的に同様の翻訳が発生する場合は、都度、翻訳会社に具体的なフィードバックをして、徐々に希望する翻訳品質に近づけていく過程が効果的です。また翻訳者を固定してチーム体制を組むことも可能です。

    より品質の高い翻訳をスピーディにお届けするため、翻訳会社は日頃からお客さまとのスムーズな連携体制の構築に努めています。「こんなこと、できる?」ということも、気軽に相談してみてください。

    とらんちゃん

    初めての翻訳依頼でも、丁寧にフォローしてくれる
    信頼できる担当者がいると安心だね。

    医療・医薬翻訳の費用を確認する

    基本は「原文の文字数(または単語数)✕単価」で計算し、単価は言語ペアによって設定が異なります。また、文書内/文書間での内容の繰り返しや類似箇所の割合などを精査することで、実際のボリュームよりも費用を抑えられるかもしれません。

    このように個々の依頼文書によって料金が変動するため、正確な料金を知りたい場合はお気軽にお問い合わせください。


    まとめ

    いかがでしたか?

    グローバル展開を目指す企業にとって、正確な翻訳は法令遵守とブランド信頼性の両面で不可欠です。加えて、日本の優れた医療技術を世界に発信し国際競争力を強化するためにも、質の高い翻訳は欠かせない要素となっています。AI翻訳など便利な選択肢も増えていますが、セキュリティリスクや誤訳の懸念もあるため、専門性が高く正確さが求められる医薬翻訳は、プロに頼むと安心です。また、信頼できる翻訳会社を確保しておくことは、ご自身の業務効率化につながります。案件の発生前に余裕をもって翻訳会社を選定しておけば、いざという時に慌てることもなくなるでしょう。

    なお翻訳センターでは具体的な翻訳案件が手元にない、スケジュールが固まっていないなど、未確定の段階でのご相談にも対応しています。ぜひ翻訳センターにご相談ください!

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    ここまでお読みいただきありがとうございました。

    翻訳センター ブログチーム

    とらんちゃん

    とらんちゃん

    「とらん」だけに「トランスレーション(翻訳)」が得意で、世界中の友達と交流している。 ポケットに入っているのは単語帳で、頭のアンテナでキャッチした情報を書き込んでいる。

    • 生年月日1986年4月1日(トラ年・翻訳センター創業と同じ)
    • モットー何でもトライ!
    • 意気込み翻訳関連のお役立ち情報をお届けするよ。

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