グローバルビジネスに役立つ「やさしい英語」|多文化共生時代の伝わるコミュニケーション
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グローバルビジネスの共通語として英語が当たり前に使われる今、求められているのは「完璧な英語」よりも、誤解なく、早く、確実に伝わる英語です。そこで注目されているのが「やさしい英語」。もともとは安全性の確保やコスト削減を目的として発展したものですが、スピードと効率が求められるビジネスの現場でも、誤解を減らし、コミュニケーションコストを抑える手段として活用が進んでいます。
本記事では、「やさしい英語」の代表的な考え方として、Plain English(文書の平易化運動)、Simplified Technical English(技術文書の標準化英語)、Globish(国際ビジネス向け簡易英語)を取り上げ、実務で使えるコツを、すぐに使える例文とともにご紹介します。
「英語があまり得意ではない」「社内で英語が必要になった」ーーそんな方にも役立つ内容です。
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「やさしい英語」とは?
「やさしい英語」とは、簡単な単語や文章を使い、読み手・聞き手に誤解なく伝わることを重視した英語のことです。
単に語彙や言い回しを簡単にすることではなく、ポイントは次の3つです。
- 短く、シンプルな文:1文に情報を詰め込みすぎず、文の構造を整理する
- わかりやすい単語を使う:難しい単語や専門用語を使わず、基本的な英単語を中心に使う
- はっきり、具体的に伝える:曖昧表現は避け、具体的に順序立てて伝える
このように、伝わる言葉へとデザインする「やさしい英語」は、多文化環境でのコミュニケーションだけではなく、ビジネスの実務シーンでも効果を発揮します。
世界中で広がる「やさしい言語(Plain Language)」の潮流
~誰にでも伝わる言葉のデザイン~
英語を分かりやすく簡潔に表現する「やさしい英語」のように、誰にでも伝わることを重視した「やさしい言語(Plain Language)」は世界中に存在します。
ドイツ語:Leichte Sprache
フランス語:Langage clair
スペイン語:Lenguaje claro
このように、各国・各言語で「誰にでも伝わる言葉」を目指す取り組みが広がっています。
日本で進められている「やさしい日本語」も、こうした国際的な潮流の一つと言えるでしょう。
「やさしい日本語」についてはこちらのブログで紹介しています。興味のある方はぜひご覧ください。
「やさしい英語」には種類がある
~代表的な3つのアプローチ~
さて、ひとことで「やさしい英語」といっても、目的や対象によっていくつかの系統があります。
ここでは実務でよく参照される3つの技法をご紹介します。
・Plain English(プレイン・イングリッシュ)
・Simplified Technical English(STE)
・Globish(グロービッシュ)
これらは、それぞれ異なる背景から誕生し、近年のグローバル社会・AI時代でも重要な役割を果たしています。詳しく見ていきましょう。
Plain English(プレイン・イングリッシュ):行政・ビジネス文書
Plain English(プレイン・イングリッシュ)とは、専門用語や難解な表現を避け、誰でも一度で理解できる「明確で簡潔な英語」を目指す考え方です。
短い単語・文、能動態を基本とし、公式文書や投資家向けのIR文書など、正確さと分かりやすさが求められる場面で幅広く使われています。
アメリカでは1970年代から、Plain Englishを行政文書に取り入れる動きが始まりました。
1978年にカーター大統領が、政府文書をわかりやすい言葉で書くよう、大統領令を出します。続く1998年にはクリントン大統領が同様の覚書を発表。そして2010年にオバマ大統領が「Plain Writing Act(平易な文書作成法)」に署名し、連邦機関の文書を誰もが分かる英語で書くことが「法律」として義務化されました。
こうしてPlain Englishは「推奨される書き方」から「守るべき基準」へと立場が変化し、主に公的文書の分野で「正確に、誤解なく伝える」ための英語へと発展していきました。
また、Plain Englishの普及は、行政への問い合わせの減少や理解不足によるトラブルの抑制など、業務効率の向上やコスト削減にも寄与しています。
さらに企業のIR分野では、読みやすさ・透明性・説明責任を強化し、投資家からの信頼獲得につながるとして注目を集めています。
Simplified Technical English(STE):技術文書
Simplified Technical English(STE、国際標準はASD-STE100)は、技術文書を明確、簡潔、かつ一貫性のあるものにするために作られた「制限言語」です。つまり、書き言葉に特化した「やさしい英語」です。
STEは、技術者向け航空整備マニュアルの誤読による安全リスクを防ぐために、欧州航空工業会(AECMA、現ASD)によって1980年代に開発されました。
STEには、ASD‑STE100の規定(最新版はIssue 9)に準拠した、厳格な実務ルールがあります。
語彙の制限:
辞書(ASD-STE100)に記載された単語のみを使用し、1つの単語は1つの意味として使う。
文の構造:
基本は能動態。
原則として1文1操作とする(操作説明は20語以内、描写は25語以内)。
STEは、単に文書に特化した「やさしい英語」という役割だけでなく、明確さを保証するための厳密なルールとセットになっていることから、誤解や翻訳ミスを防ぐという観点でも、とても有効です。
Globish(グロービッシュ):非英語ネイティブ同士のコミュニケーションメソッド
Globish(グロービッシュ)は、英語を母語としない人同士が無理なく意思疎通できるように設計された、「やさしい英語」のコミュニケーション手法です。
提唱者である元IBM幹部のジャン=ポール・ネリエール氏は、国際会議の場で、非英語ネイティブ同士が簡単な英語を使い、自然にコミュニケーションしていることに着目し、Globishを体系化しました。
Globishの主なルール
1. 頻出する基本単語1,500語と、その派生語のみを使用
2. 中学校で学習する文法を基本とする
3. 1文はなるべく短く、15語程度に抑える
ポイントは、「難しい単語を使わない」ことではなく、「知っている単語で言い切る」ことです。
すぐ使える「やさしい英語」の実例:Globishの例
ではここで、Globishの手法を用いた、すぐに使える「やさしい英語」の活用例をご紹介します。
英語に苦手意識がある方でも「これなら自分にもできそう!」と思っていただけるのではないでしょうか。
シンプルワード・メソッド
シンプルワード・メソッドとは、Globishの基本単語だけを使い、短く整理して伝えることで、非ネイティブ同士でも確実に通じる英語表現を実現する方法です。
例えば、「elephant(象)」という単語が出てこないとき、知っている単語だけで次のように説明できます。
It's an animal.(動物です)
It's very big.(とても大きいです)
It has a long nose.(長い鼻を持っています)
このように特徴を積み重ねると、相手は「何の話か」を推測することができます。
3文パラフレーズ
3文パラフレーズとは、伝えたい内容を要素ごとに分解し、3つの短い文でシンプルに表現する方法です。
1文に情報を詰め込みすぎず、「状況」「事実」「依頼・結論」などで切り分けて英文にするだけで、格段に伝わりやすくなります。
言いたいこと:
近所にあるイタリアンレストランのシーフードパスタは、結構おいしいから今度一緒に行きましょう!
3文パラフレーズ後:
An Italian restaurant is near my house.(イタリアンレストランが近所にあります)
Seafood pasta is very good. (シーフードパスタがおいしいです)
Let’s go there next time!(今度一緒に行きましょう)
このように、英語で表現するには少し難解な複数の要素が含まれる文章でも、3文パラフレーズを活用することで、分解して簡潔に表現できます。
次にビジネスコミュニケーションを想定した例も見てみましょう。
言いたいこと:
来週のミーティングについて、事前に資料を共有しておくので、内容を確認しておいてください。
3文パラフレーズ後:
We have a meeting next week.(来週、ミーティングがあります)
I will send you the document.(資料を送ります)
Please check it before the meeting.(ミーティング前に確認してください)
情報を整理して伝えられるため、聞き返しや言い直しが減り、スピーディーな意思疎通につながります。
このような考え方は、「やさしい日本語」でも同じメソッドとして活用されています。
吉開章氏の著書、『やさしい日本語3文トレーニング -ハサミの法則で伝える・伝わる説明の技術-』(駒草出版、2024年)でも判りやすく説明されています。興味のある方は読んでみると参考になるかもしれません。

「やさしい英語」で業務効率が上がる
ここまで「やさしい英語」とはなにか、どのように発展してきたのか、そして具体的なメソッドをご紹介しました。
業務効率という観点から、改めて「やさしい英語」のメリットを整理すると、以下のようなポイントが挙げられます。
・言い回しを考える負荷がなくなり、すぐに発話・記述できる
・確認・誤解が減り、言い直しや追加説明の手間を減らせる
・非ネイティブ同士でも「共通理解」を作りやすく、相手にとっても理解コストが低い
・英語力の違いによる理解度のばらつきを抑えることができる
事例:「一文一義」を重視する航空業界

続いて、ビジネスの現場で「やさしい英語」がどのように活用されているかをご紹介します。
多文化・グローバルビジネスの代表格である航空業界。認識違いによる小さなミスが、人命を脅かす大きな事故にも繋がりかねません。国籍や英語レベルの異なる乗務員・整備士・地上支援(グランドハンドリング)の各スタッフが「同じ手順を、同じ順番で」実行する必要があることから、オペレーションマニュアルでは、一文に複数の動作を詰め込まず「一文一義」にすることが重視されています。
ここで、2つの英語例文を比べてみましょう。
英語例文1
Once the aircraft is fully stopped, approach the nose gear and attach the tow bar while ensuring that the chocks are in place before starting pushback.
英語例文2
1. Wait until the aircraft has come to a complete stop.
2. Confirm that the wheel chocks are in place.
3. Approach the nose gear.
4. Attach the tow bar to the nose gear.
5. Signal the cockpit that the tow bar is connected.
地上支援作業では、航空機の停止直後に複数の作業がほぼ同時に発生します。
そのため、英語例文1のように複数の動作が一つの英文にまとめられていると、地上クルー間で認識のずれが生じ、誤接続・作業手順の逆順実施・コックピットへの誤信号といったリスクが生まれてしまいます。
英語例文2のように「一文一義」で書くことで、「停止確認 → チョーク → アプローチ → 接続 → 合図」といった一連の流れが明確になり、非ネイティブスタッフでも誤読せず、安全でスムーズなプッシュバック作業を実現できます。
このように、高い安全性確保が求められる航空業界のオペレーションマニュアルでは、単なる言葉の工夫ではなく、安全を守る仕組みとして「やさしい英語」の考え方が活用されています。
試しに、英文1と2をそれぞれAI翻訳で日本語に翻訳してみない?
どちらが「やさしい日本語」か一目瞭然だよ。みんなもぜひ試してみてね。
明確な文章は翻訳にも強い
シンプルで明確な文章は、翻訳業務においても良い効果をもたらします。
なぜなら、文化的な背景への依存が少なく、誰が読んでも同じことが伝わる明確な文章は、翻訳時の誤訳リスクを抑えやすいからです。
また、最近はAI翻訳や生成AIを利用して翻訳することも増えていますが、わかりやすい文章であることは、AIにとっても重要な要素です。
原文が明確で整理された構造になっているほど、翻訳のアウトプット精度は高くなります。
その結果、翻訳後の見直しや修正作業の負担を大きく軽減することができます。
「やさしいコミュニケーション」が支える多文化共生社会

近年、日本で働く外国人労働者数は増加が続いており、2025年10月末時点で約257万人に達しました(厚生労働省発表)。政府も外国人材の登用拡大を打ち出しています。また、海外投資家の日本株保有比率は2024年度末時点で3割を超え、過去最高水準と報告されています。
このように、日本国内でも日本語を母語としない人とのコミュニケーション機会が増えており、日々の業務や社内外のステークホルダーとの情報共有において、「伝わる言葉」の重要性はますます高まっています。
「やさしい日本語」や「やさしい英語」といった取り組みは、業務効率化や安全性の確保だけでなく、非母語話者の情報入手やコミュニケーションを円滑にすることも目的としています。
近年は、一つの言語に限定せず、「やさしい英語」と「やさしい日本語」を組み合わせた「やさしいコミュニケーション」という考え方も注目されています。
「やさしいコミュニケーション」とは、異なる言語話者がお互いに歩み寄り、寄り添うことで、より良いコミュニケーション方法を見つけようとする取り組みです。言語や文化的背景に関係なく、全員が正確かつ円滑に意思疎通できる状態を目指します。
この取り組みは、誰もが暮らしやすい多文化共生社会を実現するうえで、有用なヒントとなるでしょう。
「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(2025年10月末時点)|厚生労働省(外部リンク)
翻訳センターがサポートする「グローバルコミュニケーション」
翻訳センターでは、文書の翻訳だけでなく、皆さんのグローバルな発信やインバウンド対応も多角的にサポートしています。コミュニケーションに関する課題があれば、お気軽にご相談ください。
・英語コミュニケーション講座
・やさしい日本語執筆
・日本人従業員向け研修(多文化共生/やさしい日本語会話術)
・外国人従業員向け研修(日本語/日本ビジネスマナー・文化)
・動画翻訳・AIナレーション(プレゼン・研修資料の多言語動画化、AI音声ナレーションの作成など)
・プロによる校正(ネイティブスタッフによる、説得力を高めるためのブラッシュアップ)
まとめ
いかがでしたか?「やさしい英語」は、相手が誤解なく理解できるかという点に配慮した、やさしい言語の一つです。グローバル化と多国籍化が進む現代において、業務効率や安全性を高め、非ネイティブ同士でも共通理解を生み出す手段として、「やさしい英語」の活用が進んでいます。
「やさしい英語」の原則「情報を整理し、基本的な単語で簡潔に伝える」には、話者側の「上手に話さなければならない」という心理的ハードルを下げる効果もあります。皆さんもぜひ、日々のコミュニケーションの中で「やさしい英語」を試してみてください。
正確な翻訳はプロの翻訳会社へ
ビジネスにおいて、翻訳の正確さは信頼性を支える重要な要素です。
AI翻訳など便利な選択肢も増えていますが、セキュリティリスクや誤訳の懸念もあるため、専門性の高い文書や正確さが求められるビジネス翻訳では、安定した品質を提供できるプロに依頼するのが確実です。
翻訳センターは、医薬・特許・工業・金融・法務などの専門分野をはじめ、ビジネス文書や一般的な文書も、幅広く対応しています。まずはお気軽にご相談ください。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
※本文中で紹介している英文は考え方を示すための参考例です。特定の表現を確定的に示すものではありませんので、ご了承ください。
翻訳センター コーポレートビジネス本部
とらんちゃん
「とらん」だけに「トランスレーション(翻訳)」が得意で、世界中の友達と交流している。 ポケットに入っているのは単語帳で、頭のアンテナでキャッチした情報を書き込んでいる。
- 生年月日1986年4月1日(トラ年・翻訳センター創業と同じ)
- モットー何でもトライ!
- 意気込み翻訳関連のお役立ち情報をお届けするよ。
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